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世間の目から逃れるように入った、コンビニエンスストア。
雑誌コーナーに置かれた、自分の写真が表紙になっている雑誌が視線の隅を掠めた。
(……気持ち悪)
自分の仕事柄仕方のないことなのだけれど、こうまでして見せつけられると気持ち悪さが拭えない。
飲料コーナーの棚から500mlのミネラルウォーターを手に取り、足早にレジへと向かった。
不意に開いた入口の自動ドアの向こうから、春特有の生暖かい風が吹き込んできた。
季節が変わる、前触れだった。
「いらっしゃいませ~」
懐かしい、声がした。
遠くで聞こえる、声がした。
自分を呼ぶ、声が。
「…たなか、さん」
「…はい?」
「……こーき」
「…あ、え…」
制服であろう上着につけられた名札に書かれた名字は、言ってみれば普通の名前。
珍しかったのは、下の名前。
滅多に一回で呼ばれることがないのか、彼は口を開けたまま固まっていた。
春特有の生暖かい風が、懐かしい記憶を連れてきた。
『またいつか出会ったら、いつもみたいに笑ってくれよ』
「ふふ。…久しぶり」
― 懐かしいな あの日見てた
君のままだった
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