愛するモノには沢山の桜を口に詰めてあげる

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『ねぇ…。』 『えっ…えっ!?』 人の気配を感じた海翔は、慌て靴の裏でブレーキをかけて、後ろを振り返る。 しかし、街灯に照らされた桜の花びらがヒラヒラと舞うだけで人の姿はない。 『風の唸る音だ』と恐怖心を抑え込み、海翔は自宅に帰るため猛スピードで暗闇を駆け抜けた。 なぜなら…単純に怖いから。 その風の音を耳にしてから葉と葉が擦れる音、枝を踏んだ時の乾いた音、暗闇を飛び交うカラスの鳴き声だと判っていても人の悲鳴に聞こえてしまう。 自分が情けなく思えてくる。 誰かに『お前はビビりかぁ!』と言われても怖いモノは、誰にもあるはず。 例えば、躊躇もせず平気でホラー映画を見る女子高生でも、害虫…コギブリやムガテがチラッと台所の隅から現れるけで失神することだってあるのだから、別に音が怖くたっていいじゃないか。 自分に言い聞かせ、最新型の電動式カミソリのように震える手を握りしめて、渾身の走りで家路を急ぐ。
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