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ちゃっかり次回のお昼の催促をする天川に目が点になる。それどころか、うっかり箸を落としそうにもなった。
「え~…大したもの作れないからヤダよ」
「大したものじゃなくても雨宮の手料理が食いたいだけなんだけど」
「ヤダ、駄目、無理」
否定三大元素みたいな返事を返し、両耳を塞ぎながらプイッと向く。いわゆる聞かない振りである。
そっぽを向いた目の前に見える女子社員は、それなら私が作ってあげたいオーラだしちゃってる。
そうよ、私に頼まなくてもオーラだしている子達に作って貰えば良いのに、とは思うのだが、それはそれで複雑だな、なんてことを考えてしまう私は、つくづく嫌な女だと思う。
ふぅ、っと溜め息をはいた天川は、両耳を塞いでいる涼子の手を優しく掴み耳から放した。
「仕方ない。涼子さんが嫌なら諦めるよ」
「なっ!!ちょっ、……それ…ズルいわよ!」
眼鏡を外した状態でシュンっとした目と声。尚且つ、下の名前で言うなんて反則だ。これだから計算天然は嫌なのだ。恥ずかしい事をさらっと言ってのけるのだから。おかげで顔が赤くなってしまった。
「あー、もう。私の負け。分かったわよ。今度作るから」
こうなったら自分が折れるしかない。
「交渉成立。じゃ、俺も昼食いに行ってくる」
なんて立ち直りの早い男なんだ。小さく手を挙げ食堂へ向かっていくではないか。
しかし、なんて嬉しそうな顔をして行くのだろう。あれがあのダサ男だったとは思えないほどだ。
「もう。あんな嬉しそうな顔されちゃ、やっぱり作らないなんて言えないじゃない…」
そんな天川の後ろ姿を見ながら、料理のレパートリーもう少し増やさなくちゃ、と呟いた雨宮さんだった。
END
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