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春だ。
桜が舞い、若葉が芽吹き、降り注ぐ日の光や肌を撫でる風も、夏と冬に比べてどこか優しい。
春は希望の季節、なんて言われているのをよく聞く。
きっとその通りなのだろう。
周りでは、真新しい制服を着た新入生と思われる奴らが、緊張しながらも、生き生きとした表情で歩いている。
誰も彼も、これから始まる新しい生活に、希望を持っている。
それはそうだ。始めから絶望を抱えている奴なんていない。例えいたとしても、恐らくそれは少数派だ。
ならば俺も・・・きっと少数派に含まれるのだろう。
「・・・眩しい」
木から漏れた朝日が顔に当たり、俺は進めていた足を止めて手を顔の前にかざした。
同時に、自分が着ている真新しい制服の裾が見えた。
『お前は今度から別の学校に通うことになった』
『辛いだろうけど、我慢してね?』
「・・・・・・・・・・」
つい先日言われた言葉を思いだし、俺は顔をしかめた。
どうせ自分以外なんて、皆他人なんだ。誰だって、自分のことしか考えていない。
仲が良くても、信頼し合っていても・・・、きっといつか裏切られるのだ。
クラスの奴らや教師、友達だと思っていた奴からも、避けられた。
親にだって、厄介払いのごとく家から追い出された。
だから俺は、誰も信じない。関わらない。
そう決めたんだ。
俺は、誰とも視線も言葉も交わさず、新しい学び舎の門へ足を踏み入れた。
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