《 1 》

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すると部屋の扉が開き、慌てて誰かが入ってきた。 「莉音!」 誰かが僕の名前を呼んだかと思うと、温かい何かに包まれた。 『嫌だ…嫌だ…かえ…して…』 「落ち着いて!私です!椿です! 大丈夫です、ここはあそこじゃありません。莉音!」  しっかり名前を呼んでくれた事に僕は正気を取り戻す。 『つ…ばき…?』 「やっと目が覚めましたね…」 僕が正気を取り戻した事を確認すると前の男は僕から離れて優しく微笑みながら、そっと頭を撫でてくれた。 椿(つばき) 長い茶色い髪を後ろに緩くまとめた温厚な人。 『!椿…血…』 その時、頭を撫でてくれている椿の頬から血が出ている事に気付く。 それを見て体が疼いた。 「あ、本当だ…」 椿も自分の怪我に気付くとそれを指で拭き取り僕の口の前に差し出す。 僕は椿のうでを掴んでそれをためらわずに舐めた。 舐め終わって椿の腕を離そうとしてけど、逆に口に指をいれられた。 突然のことに僕は眉を寄せる。 「そのまま飲んでください。 もう前みたく頻繁に血はあげることは出来ませんから…」 一度椿を見た後、僕は目を瞑り口に集中する。 丁寧に口に入れられた指を舐め、指先に牙を軽く突き立てる。 その瞬間、口の中に広がる鉄の味。 僕は牙を指から離し、流れてくる液体を味わうように舐める。 体に流れていくごとに大きく波打つ心臓。 僕はそれを抑えるように椿の指から口を離す。 『はぁ…はぁ…』 「莉音?まだ…」 まだ出ている血をみて椿は再び、僕に指を出す。 だけど僕はそれを片手で制した。 『駄目…これ以上飲んだら… 力が抑えきれない…』 今の僕はあいつ会ったことによって感情は不安定で、あふれるように漲ってくる力をうまく抑え切れていなかった。 漏れ出しそうな力を抑えるように僕は深い呼吸を続ける。 そんな僕の背中を椿は黙って摩ってくれた。 ・
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