第1話 さよなら

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-Ⅱ-  8月の日差しはもはや暴力である。  暑さこそ夏の象徴であるのは重々承知ではあるものの、今年の暑さは異常だ。  天気予報によればこの暑さは観測史上稀にみるものらしい。  連日35度を越え、プールは大盛況。ビールやアイスが飛ぶように売れているらしい。  そんな暑さの中。  私は、はてさて何を好き好んでなのか(単純にテストの成績が悪かったために)夏休みにも関わらず教室のいつもの机に座らされ、補習を受けていた。  膨大な数式との睨めっこが続いている。  私の他には……あれ?誰もいない…。  そういえば数学の補習は私だけだって言ってたっけ…。  教室の窓から外を眺めてみた。  何にもないこの街でも、自然しかないこの街ではどこよりも騒がしくセミが鳴き、雲一つない夏の空が広がっている。  抜けるような青空とはまさにこのことだ。  補習終わったらアイス食べよーかなぁ…。プールも行きたいし…そういえば今年はまだ海に行ってないな。新しい水着も欲しいし…。  「……七海!おーーいッ!!古瀬 七海ぃいい!!」  ースパーーンッ!!  「い、痛い……。」  頭部を思い切り教科書で叩かれた。  うぅ…痛い。    「古瀬 七海。あーんたちゃんと聞いてるの?言っとくけどッ!!今回の数学のテストで赤点なのは……古瀬 七海ッ!!あんただけよッ!!」  「…はぁい……分かってます」  「そもそもこんな補習さえなければ私だって夏をエンジョイして素敵な彼氏と夕焼けに染まる海を眺めながら綺麗だね君のほうが綺麗だよなんてやりとりをってかこの補習に給料出ないんだぞボランティアだぞあぁ私の夏は……」  また始まった…。  私の前でなにやらブツブツ呟いているのは、この凛桜高校2年1組クラス担任であり数学教室の猪狩 沙代先生(27歳・独身)である。  
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