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小川が流れる山間…。 坂田氏はここにいた。 赤子をくるんでいた赤い布で前掛けを作ってあげたが、少年はそれをたいそう気に入り、その赤い前掛け以外は着なかった。 赤子は元気で大きな少年に。 『父、いつになれば父の故郷に連れて行ってくれるのですか?。』 少年は睡眠時に聞かされる、父、坂田氏の故郷の話を聞くのが一番の楽しみで、それがいつからか話だけでは物足らず、話にきく自然溢れる豊かな村…動物逹と楽しく共存できる村…大好きな父が育った村に、父と住むことが夢となっていた。 勿論坂田氏は少年に嘘偽りなく思い出話を物語のように話聞かせていたけれど、自分が貧困で村を追い出されたこと…意地悪で強欲な村長のことは触れず語らずにいた。 目を輝かせて聞いてくれる少年を暗く嫌な思いをさせたくない為だが、坂田氏自身、情けない過去を語り少年が自分から心離れするのが怖かったからだった。 『まぁ…その内な…。』 『父は毎度そのように申すけど一向に行こうとしません。今日は私の18の誕生日。父のおかげで立派に成長できたと思います。父がその気がないなら、是非私だけでも…父の故郷に赴くこと、旅路に出ることをお許し下さい。』 少年がこんなにも懇願するのは初めてのことだった。 『仕方ない…今はどのようになっているか分からない。お前の想像とは正反対かも知れないし……何があっても…傷つくような現実が待っていても耐えられるか?。』 『おっしゃってる意味がわかりません。でも大丈夫です。私には父がいるではないですか。例えそのようなことがあっても、今まで通り父が私を、私が父を支えていけばどんなことも跳ね返せるはずです。…さぁ、今から旅の支度をしましょう。』 『お前って奴は………。』 坂田氏はあの日村から追い出された時と同じように、赤子と巡り合わせてくれた一本の藁と、この小川付近でしか生息しない不思議な蝶をくくりつけ、まだ陽が昇りきってない正午の刻に出発した。 ただ違うのは、今は傍らに立派に成長した少年がいること。 少年は旅路に出るにも関わらず、相変わらず赤い前掛けの姿だった。
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