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「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
22年間生きてきた中で日常では一度も使ったことのなかった歯が浮くような挨拶の言葉に触れ、驚愕した就職一年目の春。
明らか場違いな場所に赴任してしまったと初日から後悔した。
私立華南学園。
それは神威が私財を投じて作ったもので世界屈指の箱庭にして堅牢……
平々凡々な家に生まれた私にとっては完全に異世界だった。
一種の高級リゾートホテルのような内装(←行ったことすらないから想像に過ぎないが)に圧倒されつつ、理事長室へと御挨拶に参じる。
重厚なドアをノックするとセキュリティが作動し、頭上の監視モニターがズームされている電子音に息がつまる。
ハイテク過ぎて、人間味がない……
『どうぞ』
落ち着いた声に導かれるように入るとそこに座るのは……悪友、恭介(キョウスケ)。
「……何であんたがここにいるのよ?」
「つれないなあ、透子(トウコ)は。もっとこうさぁ、感動の再会みたく出来ない?」
「春だからって脳ミソ沸騰させてるんじゃないわよ」
「相変わらず……気持ちいいまでにクールだね」
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