515人が本棚に入れています
本棚に追加
悪びれもせず、それどころか何処か楽しそうに頷く。
「……とりあえず、一発鳩尾に入れてもいいわよね?」
本当に腹がたつと身体は震えてくるらしい。
握り締めた拳が痛いくらいだ。
「何で?楽な仕事万歳じゃない?」
お坊っちゃまめ!
「……欠片も頼んでないっての!私の生き甲斐を奪う権利はあんたにない!」
渾身の力を込めて右ストレートを繰り出したが恭介はいとも簡単にそれを交わした。
いらっ。
もうめちゃくちゃに腕を振り回す。
振り回せど振り回せど当たらない。
傍目には完全に駄々っ子だろう……本当に馬鹿馬鹿しい。
そして、情けない。
「わ…わわ……ちょ……話せばわかる。ね?」
「……っ話すことなんかないわ!」
肩で息をしながら叫ぶ。
せっかく綺麗に結い上げた髪が無惨に崩れ始めていた。
悔しくて目頭が熱くなる。
「紙とペン貸して」
「……筆談でもするの?」
「紙とペン!」
「は……はぃ」
勢いに呑まれた恭介は慌てふためきながら引き出しを漁り、高級そうな万年筆とコピー用紙を透子の前に差し出す。
サイン下さい!
みたいなアフレコが似合いそうだった。
最初のコメントを投稿しよう!