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まさか初日にこんなものを認めるはめになるとは。
全く人生何が起こるかわからない。
大丈夫。
私はまだ若い。
まだどうにでもなる。
自分に言い聞かせながら不必要なまでに流麗な字を連ねる。
―――辞表
一身上の都合により、職を辞させていただきます。真壁透子
この就職難の時代、履歴書は馬鹿みたいに書きまくったが、辞表なんか書いたことはないから何て書くのが儀礼的なのかも知らない。
だがそんなこと今はどうでもいい。
とにかく辞めたいニュアンスがわかればそれでいい。
相手は礼儀を払うに値しないお坊っちゃまなのだから!
突然背を向け一心にペンを走らせる透子を怪訝そうに見つめる恭介の顔めがけて果たし状と言わんばかりに三つ折りにしたそれを叩き付ける。
ぺし。
不意討ちだったお陰か、額に上手く当たって少し胸がすく思いがした。
「透子?」
紙を拾いつつも不思議そうな顔をする恭介の無神経さがたまらなくイライラを増幅させる。
「今後一切私に関わらないで!」
思いっきり睨み付けその場を後にした。
残された恭介が辞表に気付き慌てて追いかけたが透子の姿は学園になかった。
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