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四月上旬の夜の山道、桜並木を黒塗りの車が走る。
人の居ない荒れ果てた山道で、高級車がドロを跳ねながら走る様はさながらスタントだ。春とはいえ手入れもされていない山奥に桜が花をつける異様さや、夜にライトアップされていない桜の不気味さも合間って、この辺りは桜の名所になりえない理由である。
金色の月と緑色の夜空には似つかない、車が走り抜ける機械音だけがひんやりとした空に響いていた。
やがて車は止まり、この辺りで一番大きな桜の木の前で、運転していた男が降りて来た。
「一年ぶりですね。」
男はそうつぶやいて桜の木の根元までくると
「おはようございますお嬢様。」
とまるで執事の様にかしづいた。すると木からすり抜けるように一人の少女が現われた。
『またお前か犬飼(いぬかい)余は、気分がすぐれん、もう三十年ほど眠るので”乙”』
そう言い放ち木に向かい戻ろうとした所手を掴まれ
「いけません桜樺(おうか)お嬢様、寝過ぎはお体にさわります」
と犬飼は言い
『それは人間の事で余には関係ないぞ』
といいジタバタと暴れ始めた。
「お仕事が溜まってますゆえ致(いた)し方ないんですよ」
そう犬飼が言うと
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