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なにも考えずにただひたすら走って、気づいたら家にいた。
「あら千冬。おかえり」
「ただいま…」
小さくそう言って、自分の部屋に向かう。
私の様子がいつもと違うことに、母は気づいていないようだった。
「……」
無言でベッドに倒れ込む。
「はぁっ…」
手のひらで目を覆う。
(なにを今更…)
誠のアドレスを聞かれたとき。
私の心に芽生えた、小さな小さな独占欲。
『彼女』じゃない、『幼なじみ』の、小さな抵抗。
(私にそんな権利、ないじゃない…)
そう思うと、余計に虚しくなって。
私の頬を、涙が伝った。
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