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ざわざわと耳障りなノイズと刺されそうなほどの視線がマトワリついて俺に絡む。
視界が遮られた今、俺にはここが何処だか分からなければ何故俺が注目されているかも。
あ、いや理由ならわかる。
「本日最後の商品はこちらの青年となります」
ジャラリと重たい手首を引かれて体勢を崩した俺に一層視線が集まった。
俺は今、人身売買に奴隷として売られているのだ。
元々俺は孤児であったらしい。
身元のわからない俺は物心ついた頃からマスターのいる教会でお世話になっていた。
マスターは偉大で寛大な人で俺の親代わりだった。
俺はマスターに釣りも歌も絵も文字も全て教えてもらったし、他の教会にも一緒に連れてってくれたりもした。
だから俺は同じ境遇のガキ達とマスターと今まで楽しく暮らしてたのに。
ある日マスターは殺された。
マスターを殺した奴等が今俺を売ろうとしているコイツラだろう。
マスターは優しすぎたんだ。
泊まる宿がないとか言ってズカズカ現れたコイツラを、俺の反対を押しきって泊めた。
人は皆平等なのだから私達だけ屋根のある所で就寝するのはおかしいと言って泊めた。
その夜マスターは死んで、俺とガキどもは捕まった。
人身売買が始まったのは定かではないが小一時間前。
比較的小さなガキから売られていったから俺は最後。
俺の血の繋がらない妹たちは汚い声の親父らに買われ、弟たちは甲高い女の声の元に消えていった。
どちらも明るい未来ではない。
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