運動会。

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前を向いたままだった私は反射的に後ろを振り返ると「っ、」上条くんとの近さに目を見開いた。それから、腕を振り切って距離をとった。跳び箱越しに立っている上条くんは「まさかここにくるみさんが来るなんて思わなかった」そう言って、何か荷物を持って跳び箱を乗り越えた。 「どうして上条くんがここにいるの?」 「外が暑くて……ご飯ここで食べてたんです」 上条くんが持っていたのはコンビニの袋とペットボトルだった。暑いからって何故こんなところでご飯を食べるんだと、上条くんのチョイスに疑問を抱くも「くるみさんこそどうしてここに?」逆に尋ねられてしまってどうでもよくなった。 「そこの自販機使いに来たらここで物音がしたものだから」 「あー、意外とせまくてそこらへんの物結構蹴ったりしちゃったんです」 上条くんは顎を引いて苦笑を浮かべる。私はお世辞でも整理されているとはちょっぴり言い難い用具室を見渡して、そっか、と頷いた。 「そ、それじゃあ……午後も頑張ろうね」 二人きりの空気に限界をかんじてそう言い再び用具室を出ようとすると、またもや上条くんに腕をつかまれた。 何するの――と言おうとした私の口を彼は大きな掌ですばやく、けど、優しく覆うと、そのままさっき彼がいた跳び箱の陰に連れて行かれた。 上条くんの温もりが確かに背中越しに感じる。つまり信じられないくらい密着しているということだ。私は彼の長い足の間に上手いこと身体をすべり込ませて座り込む形になっていた。
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