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「どういう……?」
距離をとりつつ上条くんを見て首を傾げると、上条くんは「名前。龍一って呼んでほしい」何かをせがむ子犬のような目を向けて口を尖らせた。
「ハルは名前だし」
「それは姉弟だからね」
「昔は呼んでくれましたっ」
「ひっ」
更にこちら側に身体を寄せてくる(というか、顔を近づけてくる)上条くん。
昔って何年前の話だろう。私は苦笑いして「そ、そうだったかなぁ」と言うと、「そうです!龍ちゃんって!」即答された。目の輝きが増している気がする。
私はよく覚えてるね、と言ってから、極力自然を装ってソファから立ち上がろうとしたら、手首を捕まれた。ゆっくりと顔をそちらに向ける。……微笑んでる。
「あの、上条くん?」
「くるみさん、俺のお願いきいてくれますか?」
「お願いって……あの、名前も名字もあんまり差は――」
「なら名前で良いじゃないですか」
「…………」
上条くんは私の顔を覗き込むように身体を前のめりにし、にやりと笑って言った。
しまった。墓穴を掘ったか。私は眉間に皺を寄せて、彼から顔を背ける。少し沈黙があって、右から短い溜め息が聞こえたあと、掴まれていた右手が強く後ろの方へ引っ張られた。身体ごと上条くんのほうに向くと、上条くんは目を細めて私をじっと見つめてきた。
「ほら、呼んで」
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