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パタンとリビングの扉が閉まる音がしたあとも、私は動けなかった。頭が真っ白というか、何かを考えようとすると心臓がバクバクした。声や感触を全部思い出せる。
「……龍一」
なんとなくポツリと呟いて、顔がみるみるうちに熱くなる。私は仰向けの体勢からうつ伏せの体勢になり、両足をばた足するように動かしてソファに叩きつけた。
あんな風に異性に近づかれたことなんてなかったから、ちょっと怖かった。ああいうのは、付き合ってる人たちがするんじゃないの?普通は。
……龍一は慣れてるのだろうか。なんというか、動きにぎこちなさとか全くなかったし――。
うつ伏せから再び仰向けになって、天井を見つめる。
彼に限って彼女がいたことがないということは、有り得ないだろう。そう思うと、当たり前だと納得した。「……」でもちょっと、むかついた。
「くるみさん、お邪魔しました」
「あ……はい」
「また来ますね!」
……そんなにはりきらなくても。天使のように笑う彼に「こんなところで良ければいつでもどうぞ」「くるみさん。名前、ですよ」そう言われて私は小さく頷いた。
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