ライバル視。

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「あ、ハル!ハルは!?」 しばらく二人で歩いてからいるはずのもう一人の男がいないことに気付き、私は立ち止まった。前後左右見たが、視界にハルの姿はなかった。 「見なかったんですか?ハルはあの女たちと帰りましたよ」挙動不審な私の横で冷静な龍一はそう言った。「食べ物につられて」「は?」「美味しいクレープ奢るからって言われて、俺は断ったんですけどハルは、」「行くって言ったのね……」あいつならやりかねない、と額に手をやって溜め息をつく私の隣で、龍一はコクリと頷いて苦笑した。 ハルは食べることが大好きである。そして甘いものが特に好きだ(太る心配がないのがむかつく)。下手すれば知らない誰かにご馳走してあげると言われても、迷うかもしれない。 たとえその、食べるということが口実だとしても、ハルにとっては重要な目的となる。そしてその目的を達成すると、早々にその場を立ち去るのだ。“男女二人で食べること”がいわゆる“デート”という意味になるなど、ハルの思考回路には今のところ存在しないだろう。
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