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私は唇を噛み締めて立ち上がり、男(こんな奴、妖精ではない)を睨み付けた。男は目を丸くして、それから「今、彼氏いないんだ……」口元に笑みを浮かべた。
「だ、誰!?」
「誰って――」
「見ず知らずの人に、だ、抱き付くとかおかしいでしょう!?……へ、変態じゃんかそれ!」
頭に血が上る。酸欠になりそうだ。一人ヒートアップする私に対して、男はキョトンとした表情で口を開いた。「だから、くるみさんでしょ。見ず知らずの人じゃない」「私はくるみよ!確かにそうだけど――え?何で私の名前……」今度は私がキョトンとする。
覚えてないんですね、と、男は蜂蜜色の髪を触って困ったように笑った。
沈黙が訪れる。名前を知っているし本当に面識があるってこと?でも、もし、私がこんな綺麗な人に会ったことがあるならば、忘れるはずがない。
「――あ。いた」
沈黙を破った聞き覚えのある第三者の声に、私はぐるりと首を捻った。
「なーんだ。もう会ってたんだ」
私と男を見てそう呟き、長い足を動かして近づいてきたのは、弟のハルだった。
「ハル、何しにきたの」
「んー……こいつの迎え」
「こいつって――ハルはこの人と知り合いなの?」
男を指差すハルに詰め寄ると、ハルは「え、知り合いだよ」と淡々と言った。
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