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俺は何をして地下牢に入れられたのか? 目覚める前のことが何も思い出せない。 俺は気が狂ってここに入れられたのかもしれぬ。そう考えれば記憶の喪失などの説明がつくが、俺の思考は、俺が思うに正常である。身体感覚の無さを除けば、だが。 やはり気が狂ったのか、と一人黙考していたが、不意に鉄格子から光が差し込み、俺は目を細めた。顔をしかめたのかもしれないが、顔がどういう動きをしているのかわからない。視力とそこに関する器官だけに感覚があるようだ。 足音が近づいてくる。二人分の足音だと思う。大方新しい囚人と看守だろうと予想した。 俺の牢の前で人が立ち止まる。逆光のせいで影にしか見えないが、予想通り二人だった。背の高い方が俺の牢の鉄格子をあけ、背の低い方が中に入れられる。 牢にも相部屋などというものがあるのだろうが、ここはどう見ても一人部屋だった。一人部屋に二人も入れるとは、よっぽど気が狂った人間が多いらしい。
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