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「そういえば言ったかもしれないわ」
「恐らくそれがお気に召されなかったのでしょう。お嬢様も少しお考えになって発言なさらなければ」
話の全容はわからないが、おおよその話はこうだ。
彼女はたぬきじじいことなんとか男爵の秘密(かつらであること)を公然と暴露したにもかかわらず、嫌味を言われたことに腹を立てているらしい。
エドワードは笑いをこらえながら男爵に同情した。
―そりゃあ男爵も知られたくなかっただろうね。嫌みの一つも言いたくなるかもしれない。
しかし、男爵に同情しながらも令嬢に対してますます興味がわくのも感じた。
実に面白い逸材である。
「ちょっと、それって私が考えなしの馬鹿ってこと?」
「いえ、そんな事は断じて申し上げておりません!しかし、もう少しお気を遣われてはどうかと…」
「それ、遠まわしに言ってるじゃない」
「だいたい、お嬢様は何かにつけて首を突っ込むからいけないんです。もうお年頃なんですし、そろそろ大人しくなさいませ」
「だってしょうがないでしょ!事件が私を呼んでるんだもの!!」
彼女は力いっぱい言った。
しかしそのせいで声はカフェ中に響き渡り、一気に客の視線を浴びる羽目になった。
「もうっ、お嬢様ったら!お上品になさいませ」
侍女は呆れたように令嬢をたしなめた。
そんな時、ふとエドワードの視線に気づいたらしくにこりと笑う。
「お嬢様、見てください!あの方、素敵だと思いません?まるで王子様みたい。ほら、お嬢様を見てらっしゃいますわ」
やはり侍女にとってもエドワードの容姿は憧れの的となり得るらしい。
「あら、そんなの勘違いよ」
そういいながら彼女も侍女に促されるままエドワードに視線を移し、一瞬硬直した。
そしてぽーっと頬が赤らんで、恥ずかしそうにそっぽを向けると話しだした。
「確かに綺麗な方だわ」
やはり彼女にとっても例外ではないようだ。
―悪くない反応だ。
エドワードは勝手に手ごたえを感じてゆっくりと立ち上がると彼女たちのそばに歩み寄った。
「きゃぁ!お嬢様、こっちにいらっしゃいますわ」
侍女は落ち着かない様子でそわそわとしていた。
ちらちらとエドワードを見ているのがわかる。
しかし、当の彼女はあくまで毅然としていて特に気にしている様子はない。
「初めまして、僕はエドワードと言います。あなたのお名前を教えていただけませんか?」
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