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にっこりと極上の笑顔を浮かべ、彼女の返答を待ったが返事はない。
―あれっ?
その代わりに頬を染めて答えたのは侍女の方だった。
「わっ、私はジゼルと申します。そしてこちらのお嬢様はラゼート伯爵のご息女・シャルディ様です」
―ああ、彼女は伯爵の娘なのか。どうりで品のある身なりをしているはずだ。
格好は少々地味だが、ドレスを見ればそこそこ裕福な家の出だと言うのは見て取れた。
「シャルディ嬢?」
エドワードが声をかけると彼女はやっと彼に視線を移し、頬を赤らめた。
すかさずエドワードは彼女を見つめ、にこりと微笑む。
「初めまして。エドワードです。どうぞお見知りおきを」
大抵の女たちはエドワードがこうして笑顔を向けてやればイチコロだった。
だが、シャルディの反応はエドワードにとって思いもよらぬものだった。
彼女は頬を赤らめながらも、警戒心を露わにしたのだ。
別にエドワードを嫌がっている風ではないが、信用したわけでもないということらしい。
「あの、私に何か御用でしょうか?」
彼女はエドワードから視線を外し、平静を装って尋ねた。
必死に惚れまいと虚勢を張っているようにも見える。
実際、彼女の内心は大揺れだった。
「用がなければ話しかけてはいけませんか?僕はただあなたとお近づきになりたい」
「は?」
シャルディが怪訝そうに眉間にしわを寄せた。どうやらエドワードを胡散臭いと思ったらしい。
しかしエドワードは臆することなく笑顔のまま、次々に言葉を並べたてた。
「僕は今日初めてこの街にやってきたのですが、通りであなたの姿をお見かけして恋に落ちました」
「まぁ。お嬢様に一目ぼれをなさったと?」
「ええ、胸がドキドキしてこんな落ち着かない気持ちになったのは初めてです。それで、なんとかお近づきになりたくてこうしてお声をかけてしまいましたが…やはり迷惑でしたか?」
「…め…」
答えようと口を開いたシャルディの言葉を遮って代わりに答えたのはジゼルだった。
彼女はシャルディとは違って目の前の王子様に興味津々らしい。
「迷惑だなんてとんでもない!あなたのような素敵な方なら大歓迎ですわ。ね、お嬢様!」
「……」
「しかし、シャルディ嬢は歓迎してくださってはいないようですね」
エドワードが残念そうに肩を落としてみせると、ジゼルは肘でシャルディをつついて言った。
「そんなことありませんわよね」
「え、ええ」
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