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そしてシャルディはそそくさと立ち上がるとジゼルを連れ、さっさとカフェを後にした。
ジゼルは名残惜しそうに何度も振り返ってはエドワードを見つめたが、シャルディはただの一度も振り返ることはなかった。
こうしてエドワードは数時間の間に初恋と初失恋を経験することになったのだった。
*
日も暮れると、マデルンの居酒屋『ボルカン』は仕事終わりの農夫たちでにぎわっていた。
決してお洒落でも落ち着きのある店でもなかったが、活気があってなかなか悪くない雰囲気だ。
そんな店のカウンターにはこの日、思いがけぬ来客があった。それはこんな田舎街にはそぐわぬ整った顔立ちの美しい男だった。
エドワードだ。
彼は酒の入ったグラスを片手に弄びながらたいそう落ち込んだ様子で辛気臭いため息を何度もついていた。
「オイ、兄ちゃん。どうした?辛気臭い顔して」
「んん…?」
カウンターに突っ伏しながら浴びるように酒を煽っているエドワードに1人の男が声をかけてきた。
どうやら地元の農夫らしい。
髭をボーボーにたくわえて、シャツもズボンもなんとなくみすぼらしいが、日に焼けていて逞しい体つきをしている。
「何があったのかしらねぇが、辛気くせぇ顔して1人で飲んでもうまくねぇだろ。話なら聞いてやる、俺たちと飲まねぇか?」
「俺たち?」
エドワードが振り返ると少し離れたテーブル席を同じく体格の良い数人の男たちが顔を真っ赤にして囲んでいた。
見た目は少々むさくるしい印象を受けるが、気は良さそうだ。
そうとわかるとエドワードはお言葉に甘えて束の間、彼らの仲間入りをすることに決めた。
彼らは毛色の違うエドワードの扱いに戸惑っていた様子だったが、あっという間に打ち解けた。
こういう人懐こいところは田舎ならではだと思う。
「それはそうと兄ちゃん、一体何があったんだ?ため息ばっかり、何度もついて」
どうやら彼らは最初からエドワードの様子が気になっていたらしかった。
それも無理はない、エドワードはここでは目立ちすぎていたからだ。
そんなわけでエドワードは数時間の出来事を農夫たちに聞かせてやることにした。
「実はさ…僕、今日生まれて初めて一目ぼれってやつをしたんだ。特別美人ではないけど愛嬌があってすっごく可愛い娘でね。でも、あっさりフラれた」
「一目ぼれなんざ、若いねぇ」
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