さらわれた姫君

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真剣なエドワードを横目に見つつ、彼らはどうせ冗談だろうと高をくくっていた。 しかし、その夜。エドワードは居酒屋を後にしたその足でラゼート伯爵の屋敷へとやってきた。 そこは派手さこそないものの、中世の面影を残す立派なお屋敷で住宅街の真ん中に公然とたたずんでいた。 ふと、屋敷を見上げてみると時刻はすでに22時をまわっていたがまだいくつか部屋に明かりが灯っている。 ―さて、どうしようか。 屋敷を訪ねるには非常識な時間だったし、農夫たちが言っていたように追い払われるのがオチだ。 何かいい方法はないものかと考えを巡らせていると、ふと視界に人影を見つけた。 どうやら今夜、屋敷のそばをうろうろしていたのはエドワードだけではなかったらしい。 「はぁ」 人影の正体―少しくたびれた服を着た若い男はため息まじりにまだ明かりのついている2階をじっと見つめていた。 彼は屋敷を見上げるのに夢中でエドワードの存在には気づいていないらしい。 ―ははーん。もしかしてあそこがシャルディの部屋か。 部屋を見つめる青年の切なそうな表情で容易に察しはついた。 彼はおそらくエドワードと同じでシャルディに想いを寄せていて、今も彼女の姿を一目見ようと恋焦がれているに違いない。 思いがけぬ恋敵との遭遇にはエドワードも驚いたが、その程度では彼にとって何の障害にもならない。 ―悪いけど、彼女は僕がもらうよ。 エドワードは人知れずにっと笑って、闇の中へ身をひそめた。そしていよいよ行動を起こしたのは部屋の明かりが消えてしばらくしてからのことだった。 屋敷が完全に寝静まった頃、彼はラゼート邸の門を身軽にひょいっとよじ登ると、なんなく敷地内に侵入する。 だが、この家の召使たちは優秀で玄関はもちろん窓の鍵もぬかりなく閉ざされている。 おかげで2階にあるシャルディの部屋に行くのは困難が予想された。 だが、エドワードはあろうことか何食わぬ顔で屋敷の壁をよじ登り、あっという間にシャルディの部屋のベランダに滑り込んだのだ。それはそれは見事なほどに。 ラゼート邸は地元でも有名な豪邸で2階建てといえど高さはかなりあるはずだが、エドワードにとってさほど問題にはならなかったらしい。
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