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シャルディが目が覚ますと、見慣れない粗末な天井が映し出された。
作りは簡素で決して自分の屋敷でないことは明らかだ。
そしてなぜか遠くにカモメの鳴き声と潮騒が聞こえる気がする。
「…ここはどこ?」
戸惑いながらゆっくり上体を起こすとなぜか頭や腕に鈍い痛みを感じる。
「いた…っ!」
一体何が起こっているのだろう。
シャルディは必死に記憶の糸を辿ってはみるものの、何故こんなところにいるのか、どうして眠っていたのか、この体の痛みは何なのか…その何一つも思い出せなかった。
それでも彼女は事態を把握しようと立ち上がってあたりを見回す。
ここは埃っぽく、物置かと疑うほど小さな部屋で簡易ベッドが一つ置かれているだけだった。
この部屋で唯一の小さな窓の外は薄暗い。
正直、外の明るさだけでは夜なのか朝なのか判断はつかなかった。
「どうしてこんなところにいるのかしら」
何気なく窓枠につーっと指を滑らせた。
すると指はたちまち埃で真っ黒になる。
「汚い…」
彼女は不快をあらわにし、一刻も早くこんなところから立ち去ろうと部屋のドアノブに手をかける。
すると彼女が開ける前にドアは音もなく開いた。
―まだ私は開けてないわよ!?
驚いていると彼女の目の前には長身の影が立ちふさがり、影の主は少し前のめりになって彼女をじろじろと凝視した。
あいにく、周りが薄暗いせいで影の主の表情まではわからない。わかるのは男だということくらいだ。
「なっ、何!?」
「ふーん、案外お頭の趣味は悪くないらしいな」
しばらくして影の主がそうぼそっと呟くと、シャルディは違和感を覚えた。
想像していたよりも若い声だ。
てっきり背の高さやがっちりした体格からもっと年配かと思い込んでいたのだ。
きょとんとした表情で見上げているシャルディを横目に男は振り返ると声を張り上げた。
「お頭!例の女が目を覚ましたみたいだ」
「本当!?」
―お頭?
少し離れたところでこれまた若い男の声が聞こえてシャルディはますます困惑した。状況がまったくつかめなかった。
一体ここはどこなんだろう。
そして彼らは誰なんだろう。
「あ~悪い、今は手が離せないからこっちに連れてきてくれる?」
「わかった」
男はそう答えると乱暴にシャルディの腕をむんずと掴み歩き出した。
「ちょっ!ちょっと!!」」
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