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シャルディが1人で家を抜け出すのは珍しいことではなったし、特に気には留めなかった。
しかしシーツを変え、部屋を出て行こうとするとテーブルに1枚のメモを発見し青ざめた。
「旦那様ー!大変です!!お嬢様が!!!」
「なんだジゼル、騒々しい。シャルディがどうかしたのかね?」
すでに食堂でコーヒーを飲んでいたラゼート伯爵、つまりシャルディの父親であるモリス・ラゼートは呑気に答えた。
どうせろくなことではないとさほど重要性は感じていなかったからだ。
「それが、またいなくなりました」
「やっぱり…なんだとっ!?」
モリスは一度納得しかけて、青ざめた。
正直なところ、モリスにとってシャルディがいなくなるのは驚くべきところではない。
彼女が家出をしたり旅に出たりするのはいつものことだからだ。
青ざめたのには別の理由があった。
実はこの日、モリスには大事な用があってそれにシャルディを同席させるはずだったからだ。
だが、あえて彼女にはそのことを伏せていた。
というのも彼女が嫌がるのは目に見えていたからだ。
しかし、それが仇となったらしい。
「シャルディにバレたか?」
モリスが困ったようにジゼルに尋ねると彼女は首をかしげた。
「いえ、バレたようではありませんでしたが…」
そう、実を言うと居酒屋で噂になっていたシャルディの縁談話は本当だったのだ。
どうしてこんな話が舞い込んできたのかはモリスにも謎なのだが、ある日、チューダー王家のアンドリュー王子から直々に縁談の申し込みがあった。
とはいえ、モリスは唯一の娘であるシャルディを溺愛していたし、不束な娘を王家に嫁がせるわけにもいかないと適当な理由をつけて一度は断ったのだ。
だが、シャルディの何を気に入ったのか王子はめげずに何度もモリスに掛け合った。
その結果、先に根気負けしたのはモリスの方で彼はしぶしぶながらも王子の要請を受け入れ、この日の午後にでも会食と称していわば見合いの席が設けられたのだ。
しかしシャルディ本人がいなければ会食も意味をなさなくなってしまう。
どこかから情報が漏れて逃げだしたのかもしれない。
「とりあえず、シャルディは急病で会えなくなったと殿下にお知らせせねば」
モリスはそういって急いで王子に知らせをやることにした。
しかし、時はすでに遅し。
王子はすでに屋敷のすぐ近くまで来ており、1時間もせずに彼はラゼート邸に姿を現した。
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