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「お初にお目にかかります。ぼくはアンドリューと申します」
「初めまして、モリス・ラゼートです。よくぞこんな田舎までお越しいただきました」
玄関で礼儀正しく挨拶してみせたアンドリュー王子は想像以上の好青年だった。
淡い金髪に緑の瞳が印象的で物腰も柔らかく、出で立ちも派手すぎず上品だ。
モリスは背中に大量の冷や汗をかきながら王子を出迎え、応接間に案内しながらなぜこんな素敵な王子がシャルディを嫁にと望むのかますます疑問を感じずにはいられなかった。
「ラゼート伯爵、マデルンには初めてやってきましたが自然に囲まれていいところですね」
「いやなに、正直に田舎と言っていただいて結構ですよ」
「ぼくは案外こういう長閑な街が好きなのですよ。都会はせかせかとしていてぼくの性には合いません。見ておわかりいただけると思いますが、ぼくはのんびりとした性格なので」
彼はそう言って少し恥ずかしそうにはにかんだ。
確かに王子の印象は活発というよりはおっとりしている。
「ところで王子殿下、今日は随分と早いお見えでしたね」
「ええ、実は少々お恥ずかしい話なのですが…やっとシャルディ嬢に会えると思ったら嬉しさのあまり眠れなくて早く会いたいがために朝一から馬車を飛ばしてきてしまいました。ご迷惑かとは思ったのですが、つい」
「あの、素朴な疑問なのですが一つよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
「あの、アンドリュー王子殿下はうちの娘のどこが…?正直申しまして、うちの娘は美人というわけでもありませんし、気立てが良いというわけでもございません。元気だけが取り柄のような娘でございまして、王子に気にかけていただけるようなところはどこにも…」
自分の娘のことを悪く言うのは非常に心苦しいのだが、モリスにも分別くらいはあった。
シャルディは彼にとって目に入れても痛くないほどの可愛い娘だが、一般的に見れば彼女は問題児に他ならないのだ。
そこはモリスも認めるところである。
ついでに言うとそんな娘がこんな王子と知り合う機会も全くもって心当たりがない。
しかし、当の王子はどうやらシャルディのことを知っている様子だ。
「ご自分のご息女をそんな風に仰らないでください。確かにシャルディ嬢は特別美人というわけではないかもしれません。しかし他のご令嬢にはないものを持っています」
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