ようこそ海賊船へ

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はて?とモリスは首を傾げた。 するとアンドリューは楽しそうに瞳をキラキラさせて話し始めたのだった。 まるで少年のように。 * 時間は遡ること2ヵ月前。 アンドリューは城を抜け出して街をお忍びで散策していた。 彼の今一番の関心事はこうして自分の目で街を見て歩くことなのである。 彼の居城は首都・チュブエルというシリアとは比べ物にならない大都市にある。 チュブエルは海が近く、石灰で作られた白い建物が多く立ち並び、美しい街としても有名だ。歩道の脇には可愛らしい花々が咲き乱れ、人々も健康的で活発だ。  ちなみにマデルンからだと馬車でもゆうに半日ほどかかるだろう。 この日もアンドリューは1人城を抜け出して気楽に散歩を楽しんでいた。 とはいえ、アンドリューは第9王子という立場なので王位にはほど遠く、もともとさほど彼の行動が制限されているわけではないのだが。 ただ街に出るとなるともれなく護衛がついてこようとするので、しかたなくお忍びで街に繰り出すだけのことである。 だって自分の顔は住民たちにはあまり知られていないし、第一、護衛なんかと一緒ではうっとおしくて仕方がない。 おかげで城を抜け出すのも慣れたもので、城の召使たちも毎度のことと諦めている様子だ。 「あっ、ごめんなさい!」 ぼーっとしていると1人の女性にぶつかってしまった。 大きなつばのついた帽子を深々とかぶり、フリルがふんだんにあしらわれた上品な蜂蜜色のドレスを着ていた。 ちらりと覗いた顔は思いのほか幼げで少女のように見えた。 「ごめんね、大丈夫だった?」 「ええ、急いでいたものだから前を見ていなくて。本当にごめんなさいっ!」 彼女はそういってぺこりとアンドリューに頭を下げると疾風のように走り去ってしまった。 だが、アンドリューはしばらくその後ろ姿を目で追った。 するとどうやら彼女は旅行客か何からしく、しきりにあたりをきょろきょろしている様子がなかなか面白くて笑えた。 そんな時だった。 「よっ!アンディ。久々だな」 立ち止まったまま笑みを浮かべるアンドリューに青年が声をかけてきたのは。
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