362人が本棚に入れています
本棚に追加
/90ページ
「あの、さっき道端でぼくとぶつかりましたよね?」
「えっ!?」
彼女は声を裏返らせた。少々恥ずかしそうに顔を赤くする。
「そ、そうだったかしら?」
「ええ。その蜂蜜色のドレス、覚えていますから」
「やだ、シャルディったら。相変わらずそそっかしいところは変わってないのね」
リゼッタはふふふっと笑った。
「でも変わってなくて安心するわ」
「お2人はどういったお知り合いなんですか?」
「実を言うとね、父が体を悪くした時に療養のために田舎…といっては失礼かもしれないけれど、マデルンの街に滞在していたの。マデルンはここからは遠いけれど、海からもそう遠くないし自然に囲まれていて素敵なところよ。そこでたまたまシャルディとは知り合ったのよ」
「ええ。元々父親同士が知り合いだったものだから、年頃の近い私がリジーの案内役に指名されたってわけ」
「ふーん。じゃあさぞかし手を焼いただろ」
ディンガーは皮肉のつもりでシャルディの尋ねたのだが、恥ずかしそうにしたのはシャルディの方だった。
「それがね、シャルディったら私なんて足元にも及ばないくらい、地元でも有名なお転婆娘だったのよ」
「やだ、リジーったら」
「あら、本当のことでしょ。マデルンに滞在している間、あなたの噂を聞かない日なんてなかったもの」
「それはすごい」
「結局は似たもの同士ってわけだ」
アンドリューは素直に感嘆の意を表し、ディンガーは聞こえないように毒づいた。
そして女たちのおしゃべりは止めどなく続く。
「まぁ、おかげで気は合ったわよね。滞在中は何度もシャルディの家にお邪魔したわ。だから今度はうちにも招待したってわけ。ちなみにね、シャルディはこう見えても伯爵の娘なのよ。マデルンにはシャルディのお屋敷以上に立派なお屋敷はないんじゃないかしら」
「そんなことないわよ。それに…それって皮肉に聞こえるわ。だってリジーはこんな素敵なお屋敷に住んでるんだもの。こっちの方がよっぽど綺麗で素敵じゃない」
「そうかしら?そう言ってもらえるとうれしいけれど」
「ねぇねぇ、リジー。良かったらお屋敷の中を案内してもらえない?」
「それはぼくも興味あるな」
シャルディの提案に興味を示したのはアンドリューだ。
実際、好奇心の多いアンドリューはこの屋敷の内部にも興味があったのである。
最初のコメントを投稿しよう!