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部屋の外に出るとランタンの灯りで長身の男の顔が浮かび上がった。
逞しく精悍な顔つきの青年だ。小麦色の肌で長い黒髪を一つに束ねている。
そしてここが船だということももたらされた光によって窺い知れた。取り囲む作りがまさに船そのものだったからである。
それならばカモメの鳴き声も潮騒にも納得がいく。
「放しなさいよ!!」
シャルディはグッと掴まれた腕を振り払おうと抵抗を試みたが、びくともしない。
おかげでしばしの抵抗ののち、無駄だと悟るとあっさり諦めて従うことにした。
いや、従わざるを得ないのだろう。
甲板に差し掛り、あたりをきょろきょろしていると目に飛び込んできた景色に驚愕した。
「ど、どういうこと~~~~~~!?」
まだ薄暗い空に彼女の大声が轟いた。
「うるさい」
青年は残った片方の腕で自分の片耳を塞いだ。たしなめる声色には苛立ちが見える。
だが、彼女はそんなことを気にしている余裕もなく、彼を質問攻めにした。
「ねぇ、ここはどこ?なんで私はここにいるの??どこに向かってるのーーー!?」
だってシャルディを乗せた船はなぜか海の真ん中に立っていたのだ。
今は薄暗くて朝なのか夜なのか分からないが、遠い彼方に街の明かりが小さく見えている。
これが驚かずにいられるだろうか!
船の中だということにはうすうす気づいていたが、まさか航海中だなんて夢にも思わなかった。
てっきり港に繋がれていると思っていた。
ますます自分がどうしてこんなところにいるのか皆目見当もつかなかった。
だってシャルディの暮らしている街に海なんてないし、船に乗った覚えもないのだから。
「ねぇ、私の話聞いてる?何か答えてよ!」
何でもいいから知りたくて熱弁を奮ったが効果はなく、代わりに頭上から声が降ってきた。
「落ち着いてお嬢さん。キミの質問には僕が答えてあげるよ」
マストからひらりと身軽な身のこなしでシャルディの目の前に降り立ったのは、海とは似合わない金髪で淡い緑色の瞳をした色白な青年だった。
すらっとしていて目の前の逞しい青年とは対照的で華奢な体つき。でも惚れ惚れするほど整った顔立ちをしていた。
シャルディは思わずぽかんと口を開けたまま見惚れる。
―まるで王子様だわ…でも…
「まず、どうしてキミがここにいるのか」
―ああ、思い出した!
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