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「…リジー、悪いけどアンディが目を覚ますまで帰るのを延期するわ。いい?」
「ええ。いいわよ、もちろん!」
そしてそれから数時間後、アンディが目を覚ますと彼はリゼッタの屋敷の客間に寝かされていた。
目の前には心配そうに顔を覗き込むシャルディの姿がある。
「大丈夫?ごめんなさい、私ったらその…」
「ん、大丈夫だよ」
平手打ちが炸裂した頬はまだじんじんと痛むが、幸い体に異常はなさそうだ。
「本当にどう謝ったらいいか…」
本当にすまなそうにこちらを見るシャルディはまるで捨てられた子犬のようで可愛くて、守ってやりたいと思った。
アンドリューの手がすっと彼女の頬に伸びる。
「アンディ?」
「あっ」
彼は恥ずかしそうに手を引っ込めた。
―危ない。無意識のうちに思わずキスするところだった…
そして気づいた。
自分の胸の高鳴りと彼女へと募る想いを。
*
モリスはアンドリューの話を聞いて戸惑いを隠せなかった。
そう言われてみれば確かに2ヵ月前、シャルディはチュブエルに出かけていった。
コンフォート公爵はモリスの友人で手紙をしたためた覚えがあるからそれは確かだ。
しかしまさか滞在中にそんなことがあろうとは夢にも思わなかった。というか、余所でも人様に迷惑をかけていると知らされると心苦しいばかりだ。
シャルディはどこへ行っても変わらないらしい。
「王子がシャルディを気にいって下さった経緯についてはわかりましたが…王子のような方ならばもっとふさわしいご令嬢がいたはずでは?」
「何をもってふさわしいというのでしょうか?」
「例えば容姿の美しい者もいるでしょうし、家柄が良い者もいるでしょうし、気立てのよさや礼儀作法…」
「確かにシャルディ嬢よりもいろいろな分野で優れている令嬢はいらっしゃると思います。しかし、ぼくは王位を継ぐわけではありませんし、自分の好きになった人とこれからの人生を共にしたいのです」
「その相手がシャルディだと?」
「はい。ぼくの気持ちに変わりはありませんから」
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