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水平線から太陽が顔を出しあたりが明るくなった頃、シャルディは食堂でナイフとフォークを前にいたたまれない気持ちで俯いていた。
食堂は狭く、広めのテーブルにパンや大皿にこんもりと盛られた料理がいくつか並んでいて美味しそうな匂いが充満していた。
船旅にしてはメニューは豪華だし、美味しそうな匂いに誘われてシャルディのお腹はぺこぺこだ。
だが、シャルディはなかなか食べ物に手を出せなかった。
というのもそのテーブルを囲むようにこの船の船員たちが一堂に会し(といっても船員は全部で5人なのだが)、彼らの興味はもっぱらシャルディに注がれていて料理にも手をつけずにじっと彼女の動向を見守っている。
これではさすがのシャルディも緊張してしまう。
それにいくらお腹が空いているとはいえ、がっつくのは正直令嬢としていかがなものか。
―ちょっと何なのよっ!私は見世物小屋の動物じゃないんだからっ!!!
そうは思ったものの、男たちにがつんと言う勇気はなかった。相手が1人だったら遠慮なく言えるのに。
5対1ではいささか歩が悪すぎる。
「シャルディ、食べなよ。そろそろお腹も空いてきたでしょ?」
何食わぬ顔でそう言ったのは隣に座っていたエドワードで、彼はシャルディ用に料理を小皿に取り分けてくれた。
こういうところは紳士的だ。
しかしながら彼は船員たちの好奇の目に晒され、気まずい思いをしているシャルディの気持ちには気づかないらしい。
こういう事態を招いた張本人は間違いなくエドワードだと言うのに当人は涼しい顔でなんだか腹が立った。
そしてシャルディは横目でキッと彼を睨みつけた。
「そんなに睨まないでよ。僕のことがそんなに嫌い?」
「まぁさか、お頭に好かれて喜ばない女なんていないでしょ」
にこにこしながら口をはさんだのはシャルディの向かいに座っていた活発な少年で“レイジー”とエドワードが呼んでいるのを聞いたことがある。
少年とはいっても少年のように見えるだけで実際はシャルディよりも年上らしいが。
幼く、可愛らしい顔だちに似合わずおでこにはくっきりと一筋の傷跡が残っている。
「シャルディ。オイラはレイジー、よろしくな!」
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