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アンドリューは自室の窓際に座り、心地よい風を感じながら物思いにふけっていた。
そこはチュブエルにある居城である。
「もう2ヵ月か…一体どこに行ったんだ、ぼくの愛しい人」
彼女を思い出すたびに胸が締め付けられるように痛くなる。
これが恋の病というのだろうか。
そして大きなため息をひとつ。
このところアンドリューはずっとこんな調子だった。
どうも何をする気にもなれない。
理由はマデルンでとんだ肩すかしを食ったショックのせいだとわかっている。
あの日、モリスは喜び勇んでやってきたアンドリューに向かって申し訳なさそうに「シャルディは体調を崩して床に伏せっている」と言った。
それならば仕方ないと見舞いをさせてくれと懇願したが頑なに拒まれ、不審に思ったアンドリューがモリスを問い詰めると実はシャルディは体調を崩したのではなく失踪したのだという事実が判明したのだ。
それは思いのほか、ショックだった。
そんなにも自分との結婚が嫌だったのだろうか?逃げだすくらいに。
何度思い返してみてもシャルディに嫌われるようなことはした覚えはないし、嫌われているような態度を取られた覚えもない。
それなのになぜ?
アンドリューはおかげでやむなくチェブエルに引き返すはめになり、城に戻るなり自問自答の毎日だった。
日課になりつつあった街の散策もやめ、ずっと部屋に籠っているものだから召使たちがアンドリューは病気なのかと心配しているくらいだ。
モリスにはシャルディが戻り次第、連絡をするようにと頼んできたがいまだその連絡もない。
「会いたい…」
そんな呟きをふと零したその時だ。
コンコン、とノックの音がして扉から静かに1人の青年が姿を現した。
年の頃はアンドリューと同じくらいだが、年の割にきっちり整然としたお仕着せと無表情な様子が堅苦しい印象を与えている。
「失礼いたします」
冷淡としていて抑揚のない声が部屋に響いた。
「クレイヴか」
彼はアンドリューの侍従で目を見張るほど優秀な男だが、淡々として無愛想なので屋敷の者たちからは敬遠されている。
だがアンドリューはそれも彼の個性だとおおらかな心で受け止めていた。
それに彼の能力は確かだし、信頼が置けるのも間違いないからだ。
「王子がお知りになりたがっていたシャルディ嬢の行き先がわかりました」
「本当か!?」
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