さらわれた姫君

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エドワードはため息を一つ吐いてから、にこりと笑った。 こういう展開はいつものことなのであしらいかたは知っている。 「悪いけど、用事があるからまた今度ね」 彼の笑顔の効果はてきめんだった。 先ほどまで小鳥のようにさえずっていた女たちが言葉を忘れ、とろけそうな顔で彼を見上げている。 まるでここだけ時間が止まったようだ。 この隙にエドワードは女たちを撒いた。 さすがに毎回これだとあしらい方もうまくなるというものだ。 それからエドワードはまだ陽が高いにも関わらず、我慢しきれずに居酒屋へ入った。 だが、そこはすでに満員御礼で彼の座る席はない。 「お客さん、今日はもう満席なんだよ。悪いけど他をあたってくれるかい?」 店主に言われてしぶしぶ他の店を探したが、不思議なことにこの日はどこも満席だった。 エドワードが首を傾げていると入り口のそばに座っていた親切な老人が「今日は祭りじゃからどこもいっぱいなんじゃよ」と皮肉をこめて教えてくれた。 どうせなら相席させてくれないかと頼んではみたが、相席はお断りらしい。 実に親切なじいさんだ。 仕方がないのでエドワードはシリアの街中で飲むことを諦め、隣町まで足をのばすことにした。 幸い、時間ならまだたっぷりある。 エドワードが馬車で向かったのはマデルンという街でシリアから馬車で10分ほどのところだ。 さすがにシリアほどの活気はないが、自然に囲まれた立地からか長閑な雰囲気がありいい街だった。 「おじさん、この街で評判の居酒屋に連れて行ってくれない?」 「ああ、それなら『ボルカン』だな」 馬車の御者はそういってボルカンへと馬を飛ばした。それからほどなくして馬車は歓楽街の手前で歩みを止めた。 歓楽街とは言ってもシリアのように客引きがいるわけでもないし、煌びやかな雰囲気はなく落ち着いていた。 時間が早いせいもあるのかもしれない。 「すぐそこがボルカンだ。看板が見えるだろう?」 馬車の窓から顔を出すと確かにでかでかとボルカンの看板が見つかった。 「ありがとう」 エドワードは支払いを済ますとなんとなく興味をひかれて近くをぷらぷらと歩いてみた。 初めての街を歩くのは少しだけわくわくする。 どうやらこの辺りは市内の中心地にあたるらしい。 少し歩いてみると居酒屋以外にもさまざまな店がこぞって軒を連ねていた。 ドレスショップや宝石店、靴屋、雑貨屋に八百屋やパン屋。カフェもあった。
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