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決して栄えているようではなかったが、かといって寂れているようでもなかった。
「いい街だな」
そんなことを思いながら、ふとカフェの店内に目を向けて言葉を失った。
突然、胸を鋭いもので貫かれるような感覚があった。
カフェの窓際には若い令嬢が2人、楽しそうに話している。
いや、正確には1人がまくしたてるように話しているのが見て取れる。
エドワードは彼女に瞳を奪われた。
茶色がかった柔らかな金髪に淡い青の瞳、決して上等ではないが上品なドレスを纏った令嬢でとびきりの美人とはいかないが愛嬌があって可愛らしかった。
しかも彼女の表情がくるくると良く変わること。
おかげで隣に座っていた侍女らしき女性は笑いをこらえるのに必死だ。
―なんて可愛い娘なんだろう。
エドワードは一目見た瞬間、名前も知らない令嬢に恋心を抱いた。
それは彼にとって青天の霹靂で自分でも信じられない。
でも事実なのだと締め付けられるような胸の痛みが言っていた。
それから彼はカフェに入ると彼女たちの近くの席に腰を下ろし、コーヒーを注文して会話に聞き耳を立てた。
「…なんて嫌味言うのよ、あのたぬきじじい!」
どうやら令嬢は可愛らしい見かけとは裏腹のお上品さをお持ちのようだ。
「コーヒーをお持ちいたしました」
「ありがとう」
エドワードのテーブルにコーヒーが運ばれてきて、彼は何食わぬ顔でそれを口に運んだ。
―うげ、苦っ!
そして間もなく、彼女たちの会話の続きに神経を集中させる。
「それはお嬢様が男爵の秘密を曝露させてしまったせいではありませんの?」
「秘密?」
「男爵がその…かつら、だってことをです」
エドワードは思わず、口に含んだコーヒーを噴き出しそうになった。
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