□ プロローグ

2/8
前へ
/102ページ
次へ
==6月20日 AM0:34== 時刻は深夜。 山道を一台の自動車が走っていた。 電灯はチラホラ有るものの道は暗く、不気味な雰囲気を醸し出している。 自動車の中にはスーツ姿の若い男性が、眠たげな目を擦りながら運転している。 「すっかり遅くなっちまったな。智子の奴、怒ってないと良いけど……」 結婚を半年後に控えた婚約者、同棲中の彼女の顔を思い浮かべる。 本当なら今夜は2人でディナーの筈だったのだが、食品メーカーに勤める彼は自社の工場に問題が起きたとかで、急遽彼に白羽の矢が立った。 工場の立ち上げに関わった事があり、上司が電話を受けた時たまたま目が合ってしまったのが不運というほか無いだろう。 そして工場とは広い土地を必要とする為、得てして田舎に在るものだ。 トラブルを解決した彼がこんな時間に田舎道を走っている原因は其処にあった。 「今度、何か埋め合わせ考えないと……ん?」 独り言を漏らす彼の視線の先、車のライトが照らす道の脇に白い影が入ってきた。 「(オイオイ、幽霊とか勘弁してくれよ?)」 別に心霊現象を信じている訳でも無かったが、真夜中にこんな場所に居れば怖いと思うのは仕方が無い。 だが近付くにつれその白い影が女性だと判明した。 白いワンピースに白いハイヒール、長い黒髪で見たところ鞄の類を持っていないようだ。 季節は初夏。 そろそろ蒸し暑くなってきたこの時期、別に特筆するほど珍しいと言う訳でも……いや、深夜に山道を一人で歩いているのは充分珍しい。
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

369人が本棚に入れています
本棚に追加