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故に彼が警戒したのも無理は無い。
更に言えば、ライトや駆動音で車が近付いて来ているのに振り返りすらしないのだから。
「(でも、訳有りかも知れないし、無視して通り過ぎるのもなぁ~~)」
もし後日ニュースで女性が暴漢に会い死体で発見された、なんて事が有れば罪悪感は果てしないだろう。
少なくとも彼は、見てみぬ振りを出来ない“善良な一般市民”だった。
足はあるから幽霊じゃないだろう、などと根拠の無い事を考えつつ車の速度を緩め、女性に声を掛けた。
「こんばんは」
声を掛けられて女性はクルッ振り返る。
その顔は見るも無残な、此の世の者とは思えない…………と言う事は無く、むしろ非常に整った顔立ちの美人だった。
20代半ばくらいだろうか、思いがけないタイミングで美女に遭遇した彼は一瞬惚けた様に詰まるも、直ぐ我に帰り残りの言葉を吐き出した。
「こ、こんな所でお一人でどうしました?
こんな時間ですから危ないですよ?」
その言葉に女性は足を止め、同調して車を止める彼に向かい目を伏せながら言った。
「その……彼とドライブをしていたですが……口論になって、車を追い出されてしまいました。
携帯も車に置いてきた所為で、タクシーも呼べなくて……」
なるほど、それなら彼女の格好や現状にも納得がいくと彼は思い、こう切り出した。
「良ければ、駅まで乗っていきますか? こんな場所に女性が御一人だと危ないですよ?」
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