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==6月20日 AM0:50==
女性を乗せてから十数分、男性は気を遣って色々話しかけたが、相手は終始無言だった。
こんなところで恋人に置いていかれたんだ、無理もない………彼がそう考えていると、不意に携帯が鳴った。
着信は………恋人の智子から。
普段は安全運転を心掛け運転中は携帯に出ない彼だが、会話も無い車内の空気の重さに負けつい出てしまった。
「あ、智子? ………うん、うん、いま帰ってるところ。まだ○○だから、だいぶ時間掛かるよ………いいから寝てろって、お前明日仕事だろ? だから……」
疲れているはずだが、自然と笑顔になる男性。
(………あれ?)
ふと、彼は妙な肌寒さを覚えた。
外は寒い処か、むしろ蒸し暑さを感じるほど。
とはいえ、クーラーを付けているわけでもないので、寒さを感じる原因は無いはずだ。
「ねえ……電話の相手は彼女? それとも奥さん?」
隣に座っていた女性が、こちらに顔を向けながら問い掛けてきた。
横目で見るとその顔は笑顔だったが、何故か彼は寒気が酷くなった気がした。
まるで人形のような生気の無い笑顔、彼にはそう見えてしまっていた。
「……え? ああ、ちょっと困ってる人を拾って、駅まで送り届けてるだけだよ……そんなんじゃないって、俺にはお前しか居ないんだから。
……うん……うん、そろそろ切るよ? 運転中だと危ないから……ああ、お休み」
通話を終えると、彼はふぅっと息を吐いた。
どうも浮気と勘違いされそうになったらしい。
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