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「もしもし…?」
自分でも驚く位、消えてしまいそうな程小さな声だった。
『…‥どちら様ですか?』
短い沈黙の後、可愛い、甘ったるい声が返って来た。
「…敦さんの…友達です。」
私はゆっくりと深呼吸をした。
ケリをつけるんだ。
今度こそ本当に。
「お話ししたいことがあるんです。」
『敦、私達もう無理だよ。もうやめよう…。』
『…いきなり何言い出すんだよ…。何かあったのか?』
『…そんなこともう関係ないよ。敦とこれ以上一緒にいれない。』
『…わかった…‥。じゃぁな…‥。』
記憶がある頃の敦との会話は、これが最後。
この後は泣きじゃったことしか覚えていない。
友達がつまらないデマを流したのがきっかけだった。
『敦が東京の大学に行くのは、佐恵子と縁を切りたいから。』
身も蓋も無いデマだったのに、当日の私には相当堪えた。
冷静になれば、わかったことだったのに。私は確認もせず一方的に彼を傷付けた。
そして今…
私はそんな過去の罪悪感から逃れきれていない。それなのに、記憶を無くし、偶然やってきた敦にまた胸を焦がしている。
まったく進歩がない人間だと思う。
だから終わりにするんだ。
自分で。
愛する人を幸せにすること位、したっていいでしょう?
「ねぇ、敦、明日東京行こう。」
お風呂上がりの敦は濡れた髪をタオルで拭きながら私の方を見た。
「俺、つい最近までいたんだけど…。」
「私は最近行ってないの。付き合ってよー。お願いします!」
私が両手を合わせて、お願い!と言うと敦はしかたないなぁ、と笑った。
明日はとびきりお洒落をしよう。
朝ご飯もとびきり美味しいものにしよう。
そして何も悟られないようにいつも通りに接しよう。
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