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「なんかいつもと違うね。」
東京へ向かう電車の中、敦は何気なく私を見て言った。
「そう…かな?」
「うん。服装とか、なんか大人っぽい。」
「…そうかな?」
私は悟られないか心配で、内心びくびくしていた。外の景色に目をやる余裕も殆どなかった。
「こんな風に東京にデートとか行ってたの?」
「うん。2回だけだけど…。」
ぎこちない会話。
敦は私の異変に気付いていたのか、やけに饒舌で。
敦の声がずっと耳に響いていた。
「で、どこ行くの?」
電車から降りて駅のホームを歩きながら敦はいつも通りの口調で聞いてくる。
「えっと…」
私が言葉に詰まったその時、
「敦っ!」
カツン、カツンと響くハイヒールの音。敦を呼ぶ声。
私は、両目を閉じた。
そしてゆっくり開ける。
声の主はヒールのくせに全力で駆け寄ってきた。そして敦の首元に思い切り抱き着いた。
「ちょっ…!」
敦は困惑した顔で私の方を見たが私は何も言わず小さく微笑んだ。
「敦…会いたかった!ずっと待ってたのに…!」
勿論、敦の首に縋りついて泣いているのは敦の彼女だ。
「佐恵子、どうなってんだよ!」
「…ごめんね。でも他に方法がなくって。」
私は昨日、彼女に全てを話し、今日ここに迎えに来るように頼んでおいたのだ。
「黙っててごめんね。」
敦は複雑そうな顔をしたが、小さな溜息をついて言った。
「悪いんだけど、佐恵子と話しがしたいんだ。どっか店に入りたいんだけど…。」
彼女さんは、いいよ、と言うと敦の横にぴったりとくっついた。私にとってはある意味、拷問。
でもこれが私の出した結論なんだ。
そう胸に言い聞かせた。
もう繋がれない掌。
これが本来の形なんだと。
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