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駅前の喫茶店に入って3人で座った。
話したいから、と言って店に入ったのに敦は口を開かない。
私は妙な罪悪感に駆られ、ただ黙ってコーヒーを飲んだ。
「ちょっとトイレ行ってくるね。」
彼女さんはそう言って席を立つ。
敦はそれを狙っていたらしく、2人になった途端に口を開いた。
「なんでこーゆうことになるんだよ。」
明らかに、呆れた声だった。
「仕方ないじゃん。私達は本来あるべき形に返るべきだよ。」
「だからって…どこの誰だかわかんない彼女とどう過ごせば…。」
「…‥じゃぁ私は?」
敦の言葉が消えた。
「どこの誰だかわからなかったはずじゃん。なんで私なんかの所に来たの?」
本当はずっとずっと聞きたかった。
「私はただの元カノなんだよ?」
なんで私を選んだのか。
「…‥でも幸せだった。」
私の口調はひどく穏やかで、普段と何の変わりもなかった。
「この数日間、あの頃に戻れたみたいで楽しかった。」
「だったら何で…、」
敦の質問に答えることはなく、私は曖昧に微笑んだ。
「ごめんね。色々と。でもずっと言いたかったんだ。」
まるで時間が止まったように周りの声が一切耳に届かなくなった。
「敦のこと、大好きだったよ。どうか、幸せに。」
ずっと言えなかった言葉だった。2年経った今、やっと言えるなんて…。
私は急いで席を立ち、出口に向かった。
背後から、私を呼ぶ声がしたが振り返らずに走った。
込み上げる涙。
まるで思い出の結晶のように次から次へ零れ落ちていく。
ホームの階段を一気に駆け上がり、着いたばかりの電車に乗った。
車内はガラガラで空席が沢山あった。座席に座り、外の景色を見た。
ばいばい、敦。
本当のお別れは、いとも簡単に済んでしまったのだ。
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