11人が本棚に入れています
本棚に追加
「あっれ、復帰早くない?」
2日振りに大学へ行くと、春香が意外そうな顔で出迎えてくれた。
「敦なら東京に帰した。彼女さんに引き取って貰ったよ。」
「ふぅん。じゃぁ解決したんだ。」
「まぁね。あと記憶が戻れば完全に解決。それよりさ、2日分のノート、コピーさせて。」
私はそれからまた平穏な日常を過ごした。以前のように、穏やかでありきたりな毎日を。
1ヵ月後、彼女さんから敦の記憶が戻ったという連絡が来た。
多少は複雑な気分になったが、いつの間にかそれも消えていた。
もうすぐ私は20歳になる。
あの日の約束を忘れた訳ではない。
きっと一生、忘れることはないと思う。
「佐恵子、あんたの誕生日会やんの当日でいい?」
「え?…あー…出来れば前日がいいな。」
「別にいいけど、当日は都合悪いの?」
「実家に帰るんだよね。ごめんね。」
馬鹿みたいに、誕生日当日を空けてみた。
「とことん馬鹿だよなぁ。」
海は今日も穏やかだった。
今日は私の誕生日。
沢山の人が祝ってくれた。ただそれで、十分幸せなのに。
私はこの海へ来ていた。
私達の約束の場所へ。
「やだやだ。何やってんだろ、私。帰ろう…。」
大きな独り言を呟いて、砂浜のコンクリートから立ち上がったその時、
「佐恵子。」
君の声がした。
まるで幻聴のようだった。波の音が生み出した、幻聴。振り返るのが怖くて、私は固まってしまった。
「佐恵子。」
敦の声。私の名前を呼んでいる。なんで?
「佐恵子…。」
掴まれた右腕。
振り返るしかなかった。
「何してんの…?」
こんな言葉しか、見つからなかった。
最初のコメントを投稿しよう!