約束の場所

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「あっれ、復帰早くない?」 2日振りに大学へ行くと、春香が意外そうな顔で出迎えてくれた。 「敦なら東京に帰した。彼女さんに引き取って貰ったよ。」 「ふぅん。じゃぁ解決したんだ。」 「まぁね。あと記憶が戻れば完全に解決。それよりさ、2日分のノート、コピーさせて。」 私はそれからまた平穏な日常を過ごした。以前のように、穏やかでありきたりな毎日を。 1ヵ月後、彼女さんから敦の記憶が戻ったという連絡が来た。 多少は複雑な気分になったが、いつの間にかそれも消えていた。 もうすぐ私は20歳になる。 あの日の約束を忘れた訳ではない。 きっと一生、忘れることはないと思う。 「佐恵子、あんたの誕生日会やんの当日でいい?」 「え?…あー…出来れば前日がいいな。」 「別にいいけど、当日は都合悪いの?」 「実家に帰るんだよね。ごめんね。」 馬鹿みたいに、誕生日当日を空けてみた。 「とことん馬鹿だよなぁ。」 海は今日も穏やかだった。 今日は私の誕生日。 沢山の人が祝ってくれた。ただそれで、十分幸せなのに。 私はこの海へ来ていた。 私達の約束の場所へ。 「やだやだ。何やってんだろ、私。帰ろう…。」 大きな独り言を呟いて、砂浜のコンクリートから立ち上がったその時、 「佐恵子。」 君の声がした。 まるで幻聴のようだった。波の音が生み出した、幻聴。振り返るのが怖くて、私は固まってしまった。 「佐恵子。」 敦の声。私の名前を呼んでいる。なんで? 「佐恵子…。」 掴まれた右腕。 振り返るしかなかった。 「何してんの…?」 こんな言葉しか、見つからなかった。
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