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それはいつもと変わらない夕方だった。私はいつものように大学から自転車で5分かかる家に向かっていた。
「あら、佐恵子ちゃんお帰り。さっきお母さんがみえて果物置いていってくれたわよ。」
マンションの部屋の前に着くとお隣りのおばさんが声をかけてきた。
「お母さんが?…今日も午後の講義には出るって言っておいたのに…いつもすみません。色々預かって貰って…。」
「あらぁ、いいのよぉ。こちらこそいつも貰い物ばっかしてるんだから。はい、預かり物ね。」
そう言っておばさんは私にリンゴとオレンジが入ったビニール袋を手渡した。
私の実家は隣街で、母はちょくちょく今の部屋を訪れるのだ。
私はおばさんにお礼を言い、部屋に入った。今日も1日何の変化もなく、とても平穏だった。私はまずキッチンに向かいビニール袋を置き、次に重い荷物を適当に床の上に置いた。
そしてとりあえずその殺風景な部屋を見渡し、小さな溜息をついて財布と携帯だけを持って夕食の材料を買いに出た。
「重…。」
ついついスーパーで買いすぎてしまい、重い袋を必死に持ち上げ家へと向かう。
独り暮らし2年目となると随分主婦らしくなってしまうんだな、と改めて痛感してしまう。
やっとの思いでマンションの入口まで辿り着くと、突然誰かに呼び止められた。
「あの、すみません…。」
それは聞き覚えのある声だった。反射的に振り向く。
「あの、もしかして…瀬戸佐恵子さんですか?」
立っていたのは…
「敦…。」
紛れもなく私の元カレ…敦だった。
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