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次に我に返った時には、私はキッチンに立っていた。しっかりエプロンをして包丁を握り、オムライスを作っていた。
ソファーの方に目を向けると、敦は自宅から持ってきた高校の卒業アルバムを眺めていた。
「何か思い出した?」
オムライスとサラダをテーブルに並べながら敦に目を向けると、敦は苦笑いを浮かべながら首を横に振った。
「佐恵子さん、」
「佐恵子でいいよ。」
「佐恵子、これ…。」
敦はアルバムに挟まった1枚の写真を私に手渡した。
「うわ…懐かしい…。」
写真にはピンクのハッピ姿の敦と私が満面の笑みを浮かべて写っている。
「これ見て、佐恵子に会えばなんか思い出すかなって思って…。」
私は写真を手に取ってぼんやりと眺めた。
「文化祭の時のだ。」
まだ私たちが“恋人同士”だった頃の写真。ひどく懐かしい感情と、ひどく切ない感情が一気に押し寄せた。
「俺と佐恵子って…。」
「うん。中3から高2の終わりまで付き合ってた。」
「やっぱり…。」
敦はあまり驚いた様子はなく、私の持つ写真に目をやった。
「…。」
しばらくの間、沈黙が起こり、カチャカチャと食器を置く音だけが響いた。
「そういえば行くあてはあるの?」
私が聞くと敦はスプーンを口に運びながら、ないと簡単に答えた。
「なら泊まっていけば?ここら辺に知り合いいないんでしょう?」
「助かります。佐恵子、料理上手だし。」
そう言うと敦は口いっぱいオムライスを頬張り、なんだか懐かしい味がすると笑った。
オムライスはよく私が作ってあげた料理のひとつなのだ。
この人は本当に敦なんだ…。
なんとなく、思い知らされた気分になった。
敦が目の前にいるのに、あの頃のように幸せな気持ちにはなれなくて、ただ妙な歯痒さともどかしさばかりを感じていた。
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