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次の日の朝、私達は早起きをして実家のある隣街に向かった。
「綺麗なとこだね。」
「そう?」
駅のホームを抜けて外に出ると、敦は目を輝かせた。
微かに懐かしい潮の香がする。
「なんかいいね。デートみたいで。」
敦は暢気に笑う。
「お気楽なんだからぁ~。」
私達は昔に戻ったかのように懐かしい場所を巡った。
通っていた高校、学校帰りによく寄ったクレープ屋、本屋、服屋、喫茶店。
時間が経つのを忘れて、本当のカップルみたいに沢山歩き回った。
「あー疲れたぁ。」
そして最後に海に到着。1番最後に海に来るのが私達のデートコースだった。
「夜の海ってなんか綺麗だね。」
まだ5時だというのに辺りは真っ暗だった。冷たい風が頬を刺す。
「寒いね。風邪引いちゃうよ。」
敦はそう言って私の手を握った。温もりがゆっくり伝わってくる。
私は何も言わずに、ただ浜辺を歩く敦に着いていった。
「ここはね、私達の約束の場所だったんだよ。」
私がそう言うと敦がピタリと歩くのをやめた。何も言わず、ただ振り向く。
私は顔を見ることが出来ずに俯いた。
「約束したの。昔。私が20歳になったらこの海でプロポーズするって。」
気が付いた、涙が溢れて零れ落ちていた。
『約束するよ。何があっても俺はお前にプロポーズする。』
『本当に?信用できないなぁ。』
『だったら場所と日にち決めよう。そうだな…この海で、お前の20歳の誕生日に決定!』
『いいよ。約束ね?破ったら針1000本飲ますからね。』
なのに私は一方的に敦を突き放してしまった。馬鹿なことをしたと何度も悔やんだ。
そして今でも、私はこの約束を忘れられない。とことん馬鹿だとつくづく思う。
あの日々に帰ることなんて、出来ないのに…。
「馬鹿みたいでしょう?身勝手過ぎるよね。敦がまた帰って来てくれること、未だに期待してるんだよ?」
ただ自嘲するしかなかった。
「ごめんね…。ごめんね、敦。」
繋がった掌が熱かった。
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