2712人が本棚に入れています
本棚に追加
「よろしくお願いします」
と 私に名刺を渡すと、林弁護士は向かい側に座りました。
普通は出会いの場では少なからずニッコリするものだと思いますが、夫に浮気されてどん底にいる依頼人と、その担当弁護士という性質上、私たちの出会いに笑顔は一切ありませんでした。
林弁護士は、40歳ぐらいに見えました。
若い、やり手の弁護士という感じで、ビシッとスーツを着こなし、髪はきちんとセットされていました。
「それでは、ご相談の内容を、聞かせて頂けますか?」
林弁護士が、私の顔を見ました。
この人、私のこと何て思ってるんだろう…
旦那が浮気したってことは 電話で言ったし、『可哀想な女だな』とか思ってるのかなあ…
と、恥ずかしい気持ちが込み上げてきましたが、もうなるようになれという気持ちで、私は話し始めました。
「主人が、人妻2人と浮気していることに最近気付いたんです。
そのことは主人も認めていて、1週間以内に浮気相手2人とそれぞれ会うことになりました。」
林弁護士は、顔色を変えず、軽く相槌を打ちながら聞いていました。
私は続けました。
「離婚については──
正直まだ…私自身の気持ちがまとまっていません。どうしたいのか…
相手の女性たちとの話し合いの内容次第かもしれません。
こんな中途半端な状態でこちらに伺ってしまって申し訳ないとは思ったんですが…
離婚になるにせよ、ならないにせよ、できるだけ私に有利になるように進めたいんです。
相手の女性に会うに当たって、聞いておいた方がいいことや言っておいた方がいいこと、気を付けることなんかがあったら、アドバイスを頂きたいんです。」
「なるほど、そうですか…」
林弁護士は、しばらく考えると、静かに話し始めました。
「まだ、中村さん自身の気持ちがハッキリされていないという今の時点で、なかなか具体的に言えることは少ないのですが…」
ですよね(苦笑)
離婚したいんです!とか、やり直したいんです!とか、決めてから来るのが普通です。
「その中で、いちばん大事だなと思うことは、
相手の女性に、『認めさせる』ということです」
「認めさせる…?」
「そうです。キチンと、ご主人との間にあった事実を、できるだけ細かく聞き出し、認めさせ、そしてできればその証拠を残すことです。」
最初のコメントを投稿しよう!