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プロの弁護士に適切なアドバイスをもらうことを求めて、私は弁護士事務所のドアを叩きましたが、それと同じぐらい、『弁護士に相談した』という、既成事実が欲しかったのです。
このときの私は、とにかく恐ろしく行動的でした。
限られた時間の中で、少しでも自分に有利になることをしなくちゃという思いでいっぱいで、周りにどう思われるかとか、そんなことがあまり気になりませんでした。
ちなみに、普段の私は、周りの目が結構気になるタイプです。
人は、追い詰められると 行動的になるのかなあと思います。
さて、弁護士事務所を出たのが、午後2時少し前。
財布の中の十万円はそのままに、時間的にも思ったよりずっと早く終わってしまいました。
駐車場に戻って車に乗り込み、溜め息をひとつ。
『認めさせ、できればその証拠を残すことです。』
という、林弁護士の言葉を思い返していました。
「…よし」
私は、車を出しました。
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15分後、私は、だれもいないアパートに着きました。
部屋に入ると、旦那が昨日ここで寝た形跡がありました。
とりあえずここ2日間は、私たちがいなくても、実家に帰らずここから仕事に通っているようです。
私は、チビを布団に寝かせてから、パソコンを立ち上げました。
チビは、4ヶ月ですが、首据わりも寝返りも比較的早く、今では寝返りでゴロンゴロン横に進むようになっていました。
うつ伏せの状態では、手で支えて上体をアシカのようにグッと持ち上げて、満足げです。
チビは、慣れた布団で居心地良さそうに笑っていました。
「ちょっとまっててね」
パソコンが起動すると、私はWordを立ち上げました。
新規作成…
『私、______は、平成__年__月から、平成__年__月まで、中村タカシと不倫関係にあったことを認めます。』
言葉を慎重に選びながら、私は文章を作りました。
こんな、穴埋め形式の紙切れが、不倫の証拠として有効かどうかは分かりませんでしたが、ないよりはマシ!という気持ちで打ちました。
素直ににしろ、渋々にしろ、書かせることがまずは第一の大きな壁です。
できるだけ抵抗なく記入できるように、空欄には名前や数字だけを入れる形にしました。
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