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国の町並みが見えてから数刻、小隊はやっとのことで国土を踏む。
疎らに建物のある人気のない国の外れ、椰子の木が国を守るようにして密に生え縁を飾る。
歩くと靴底と床石の間でザリザリと砂が擦れる。
国境沿いであるため警備兵とちらほら擦れ違うが、彼らは皆一様に立ち止まり敬礼するだけだ。
茶褐色の土を塗り固めて作った横に長い建物が姿を現す。特有の辛気臭さを湛え横たわる建造物の正面玄関に男が立っている。
姫の付き人だろうか。
やたらと身なりが良い。
しかし着ている当人は髪もぼさぼさで垢染みており、上等な服とはまるで噛み合わぬ卑しさが滲む冴えない男である。
「いやはや、お待ちしておりました。皇国軍の方ですな? ささ、姫は中に居られます。どうぞ、こちらへ」
男はクレーエと対面するや否や、目尻の垂れ下がっただらしのない顔で揉み手をし寺院の中にせわしなく招き入れる。
「あのう……暑い中遠路はるばるとやって来て頂いて、お疲れのこととは存じ上げますものの……姫を連れてすぐにでもここを経って頂きたいのです」
隊列を崩さぬまま薄暗く細い通路を渡る。
狭い通路を沢山の足音が憖憖と響く中、男が歯切れ悪そうに切り出す。
「なんでぇ、茶も出さねぇのがピッコロ流のおもてなしか」
「すみません。ただ、こちらにも事情というものが御座いまして、へへ。やっぱり姫様のような高貴で、煌びやかなお方をこんな抹香臭くて薄暗い寺に長いこと押し込めておくのも気が引けましてね……」
「いやに饒舌だな。王宮に仕える人間たるもの、言葉少なにどっしり構える品格ってのも必要なんだぜ?」
「す、すいません。皇国のお偉いさん相手で上がっちまいまして……」
ま、俺も人のこたぁ言えねぇか。
クレーエは底冷えのする目で品定めでもするように男を見つめる。
蛇に睨まれた蛙の如く竦み上がった男は、せかせかと歩調を上げクレーエ達の前を歩き先を急いだ。
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