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「やっぱりなぁ、四十を超えると砂漠の長旅はキツいんだよ」
石英の白い砂礫をサクサクと踏み分けて、黒い軍服を身に纏う男達は規則正しい列を保ちつつ進む。
隊列の最前に立つ銀髪の男は零した愚痴とは裏腹に、飄々とした皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「二十代の頃とは訳が違うんだ。全く皇帝閣下は人遣いが荒い」
笑みを絶やさぬまま首を後ろに向ける。
「そう思わないか? シュヴァルツフォーゲル君」
すると男の後ろにいた痩躯の青年兵士が顔を上げる。およそ活発溌地とは言い難い薄弱な男だ。
「じ、自分の名前はシュパッツです。クレーエ都督」
ああ、そうだったな。心底どうでも良さそうな、軽い調子でクレーエと呼ばれた男は呟く。
獅子のように逆立てた銀髪が砂を含んだ風に泳ぐ。
「これが戦だったらまだ良かったんだ。だが今回の相手は若い女だ。これがまたどんな強国よりも手強い」
「はぁ、」
青年兵士シュパッツの覇気のない返事を聞いているのかいないのか、クレーエは何処となく遠くを見ながら続ける。
「若い女ってのは大概俺みたいなヤニ臭い、四十路オヤジを毛嫌いするもんだ。しかも相手はイイとこのお姫様と来たもんだ。さぞかし高飛車で気の強いじゃじゃ馬なんじゃねぇか」
空と砂丘の境界に漸く町並みが見えて来る。
立ち上ぼる陽炎に椰子の緑や土壁の家々が滲み歪む。
オアシス国家『ピッコロ』はすぐそこだ。
「ま、未来の皇后様になられるお方だからな。適当なおもてなしじゃあいけねぇ。お前たちも精々、ひっぱたかれんのもヒールで踏まれるのも覚悟でお姫様にへつらっとくんだな」
ニヤニヤと顎鬚を触る。
背を丸めしょぼくれたように上目で見つめるシュパッツを余所に、クレーエは行軍のスピードを上げた。
「てめぇら、俺たちが今からお迎えにあがるのは皇子の未来のお妃様、ローンディネ姫だ! くれぐれも粗相のないよう、上品で紳士的なエスコートを心掛けろ!」
隊の最後尾にまで響き渡る蛮声を張り上げる。上品で紳士的とは言い難い。
固い顔をした兵士達は相変わらず無表情に口を結んだまま、歩調を乱さず熱射の中を突き進んだ。
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