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世界の最涯まで果てしなく続く砂の海、海〈マーレ〉。
生命が栄えることを許さぬ砂漠にはただ無機質な白が湛える。
だが、それでもこの死した白い海で人間は細々と生きていた。
海〈マーレ〉で最大規模の軍事力を備える皇国フィルマメントは砂漠では類を見ない程水と緑に恵まれた国だ。
豊かな資源はひとの暮らしを豊かにし、豊かになった人々は更なる豊かさを求め貧しい者から搾取する。
フィルマメントの皇帝はあまたの小国を力で捩じ伏せ、ときには滅ぼし尽くし、砂漠の限られた資源の殆どを占領していた。
今回皇国軍の小隊を率いてクレーエが向かったのは、海〈マーレ〉の中でもなかなかの資源に恵まれる小中規模の王政国家、『ピッコロ』だ。
この国は先の戦争で皇国フィルマメントの圧倒的軍事力の前に屈し、和睦を結んだばかりだ。
ピッコロは和睦の印として、毎年皇国に多くの農作物や織物を献上すること、そして国王の娘であるローンディネ姫を皇国の皇子セイレンに嫁がせることを約束した。
嫁入りと言えば聞こえがいいが、早い話体のいい人質だ。
ピッコロの王は国と我が身可愛さに自分の娘を皇国に贄として差し出したのだ。
「姫が待っていらっしゃるのは国の外れの寺院だ。あまり目立たぬよう行動しろ」
皇国に姫が無事に到着するための護衛。
それが今回都督であるクレーエに下された命だ。
ピッコロは姫を皇国に嫁がせることを公にすることを望んではいない。
クレーエが少人数だけを率いて来たのはあまり大事にして目立たぬようにするためだ。
戦争に戦わずして降伏し、国の為とはいえ娘を人質に出さなければならないというのは外聞が悪い。
小国の、なけなしの矜持だ。
今回姫は人目を憚って皇国軍と合流する手筈となっている。
そのために選ばれたのが国の端にある寺院だ。
僧侶たちの手引きで姫はとうに隠密に寺院入りしているはずである。
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