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緑で覆われた森。鳥達のさえずりが辺りに響き渡る。木漏れ日の差す道を一人の少年が歩いていた。
ナック。――それが少年の名だ。肩から鞄を斜めにさげ、浅い呼吸を繰り返しながら延々と続く真っ直ぐな道を歩き続けていたが、不意にその足を止めて深く深呼吸をすると、緑で覆われた天を仰ぎ見た。
「あー・・・足が痛い・・・」
額に汗で張り付いた黒い前髪を掻き分け、ナックは2・3回その場で屈伸をする。
この森に入って早数時間。歩けども先は見えてこない。森の中は比較的涼しく、そこまで体力面を気にすることは無かったが、足を痛めてしまってからは何ともし難い。
ナックは昨日15歳になったばかりだった。15歳と言っても、この国では15歳になれば立派な成人。そしてその日を機にナックは家を追い出される羽目となった。理由は至って単純だった。
「ナック。明日には晴れてあんたも成人ね。これからどうするの?」
と、夕食の席で姉に尋ねられた。
「んー・・・別にぃ。特にやりたい事もないしね」
そう言った途端、家族全員の顔が歪んだ。キッチンに立っていた母は、包丁を持ったまま凍りつき、父はこめかみを押さえ、姉はあんぐりとしていた。
「な、何だよ皆してそんな顔・・・」
まさかそんなリアクションをとられるとは思っていなかったのでナックは思わず怯んだ。
「嘘でしょう? あんた、15にもなってやりたい事がないなんて」
冗談よね、ね? と、姉は引きつった笑顔を見せる。ナックも釣られて引きつった笑顔を浮かべながら
「や、本気だけど」
と言った。しばしの沈黙後、それまで黙っていた父が口を開き、
「・・・ナック。部屋に、戻りなさい」
と、何やらいう事を聞かないと軽く3発は殴られそうなオーラを出していたのでナックはそそくさと食卓を後にし、部屋へ逃げ込んだ。
翌朝。ナックの15回目の誕生日を迎えると、家族はナックにリュックを一つ手渡し、家から追い出した。
「な、何だよいきなり!」
家の外に締め出されたナックは、ドアをドンドンと叩きながら入れてくれと頼んだが、帰ってきた言葉はナックをどん底の気分にさせるものだった。
「我が家にニートはいらない。やりたいことが見つかったら帰っておいで」
ナックの中で優しかった母が一気に鬼に変わった瞬間だった。
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